きつい仕事として名前を挙げられることが多い施工管理。実際、当事者はどのようなポイントをきついと感じているのでしょうか?
この記事では、独自アンケートで集めた施工管理の声や、厚生労働省・業界団体による実態調査など、多方面の情報から見えてきたきつさの正体や、その解決方法をご紹介します。
施工管理のきつさ7種類
セコカンプラスが実施したアンケートや統計データから、施工管理のきつさは大きく7種類に分けられることがわかりました。
1. 残業が多い
厚生労働省の『毎月勤労統計調査』によると、建設業界の実労働時間は、全業界平均と比べて年間360時間以上も多いことが明らかになっています。ほかの職業より、1日あたり1時間以上余分に働いている計算です。
日本建設産業職員労働組合協議会(日建協)の調査では、土木・建築で外勤をしている方の所定外労働時間は、月60時間ほど。全職業の平均(月19時間程度)の3倍近く働いているという結果が出ています。
また、厚生労働省の「過労死等防止対策白書(2019年版)」によると、施工管理(現場監督)の34%が「時間外労働の長さ」がストレス・悩みだと回答。多くの方が自覚しているきつさのようです。
出典:厚生労働省「平成30年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況(PDF)」
残業が多くなる原因は?
残業が多くなる原因は、業務量の多さ。下記のような要因が重なって多忙になっているという調査結果が出ています。
- 事務書類の量が多いうえ、現場作業が終わらないと着手できない
- 顧客からの予期せぬ要望への対応が多い
- 人員不足
施工管理の声(一例)
- 繁忙期になると、月の残業が80時間を超えることも多い。持ち帰りも含めると、何時間働いているかわからない。
- 朝早く、夜は遅い。7時台に現場に出勤して、報告書づくりが終わるのは21時~終電ということもある。
- 昼間は現場に出てしまうので、パソコンが必要な事務処理・報告書づくりができない。結果、残業せざるを得ない。
- 戸建住宅や小規模な現場の担当になると掛け持ちが多く、残業しないと作業が終わらない。
2. 休日が少ない
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、建設業界で「完全週休二日制以上」の企業は約36%。全業界平均の53%と比較して、20ポイントほど少ない結果となっています。
また、休日が最も少ない部類である「週休1日または週休1日半」の企業は、建設業界だと12.2%。全業界平均よりも3ポイントほど多いことがわかりました。
出典:厚生労働省「就労条件総合調査(2020年度版)」
休日数が少ない原因は?
休日数が少なくなる原因の一つが、工期に間に合わせるためのスケジュール設定。下記の要因が重なって、休日が減少するケースが多いようです。
- 発注者からの依頼時点でタイトな日程になっている
- トラブルや悪天候などによる作業の遅れを取り戻すために休日を削っている
施工管理の声(一例)
- 基本的に、休みが週に1日しかない(日曜日のみが多い)。
- 週休2日の場合も連休にならないことが多く、家族旅行にも出かけにくい。
- 悪天候等で工事が進まなければ、休日を返上することがある(特に、土木工事)。
- 事故や近隣トラブルなど、緊急対応でいつ呼び出されるか分からないから、気が休まらない。
- 人手不足で、有休や代休がとりにくい。
3. 人間関係(コミュニケーション)に気を遣う
発注者と現場の間に立つ仕事ということで、両者との調整に苦心する人も少なくないようです。「顧客の要求を調整しきれない一方で、現場にはタイトなスケジュールで作業依頼せざるを得ないことが心苦しい」といった声も聞こえてきます。
厚生労働省の「過労死等防止対策白書(2019年版)」のストレス・悩みに関するアンケート結果を見ても、建設業界では3割近くの人が「顧客からの過度な要求」や「職場の人間関係」といった、コミュニケーションにまつわる項目でストレスを感じていることがわかりました。
出典:厚生労働省「平成30年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況(PDF)」
施工管理の声(一例)
- 気が荒い職人さんがいる現場では、常にびくびくしてしまう。
- 「知識を持っていて当然」と思って接してくる職人さんが多く、質問に答えられなければきつい言葉をかけられる。
- 飲み会が多い文化もある。コミュニケーション手段の一つだから、参加しない訳にいかないのがつらい。
- 若かったり、女性だったりするだけで、下に見られることもある。
4. 転勤・出張が多い
既婚男性を対象にした日本建設産業職員労働組合協議会のアンケートでは、外勤の方の4割超が単身赴任していることが明らかになっています。特に、道路工事などを扱う土木の担当者は、5割超の方が単身赴任していることがわかりました。
出典:日本建設産業職員労働組合協議会「2018 時短アンケートの概要(PDF)」
同アンケートによると、単身赴任生活によって下記のような心配事も増えているようです。
- 家族とのコミュニケーションが減る
- 二重生活によって生活費がかさむ
- 一緒に働くメンバーも変わるため、人間関係の変化に戸惑う
施工管理の声(一例)
- プロジェクトごとに勤務地が変わるから、腰を落ち着けられない。
- 地方出張が続いて、なかなか家に帰れない。家族と過ごせないし、趣味やイベントごとにも参加しにくい。
- ゼネコンだと海外転勤もあり得るから、気が休まらない。
5. 給料が見合っていない
国税庁の民間給与実態統計調査によると、建設業界の平均年収は509万円。全業界平均が433万円なので、平均よりも80万円ほど高い水準になっています。
その一方で、給料額に関する不満が出てくるのは、長時間労働や出勤日数の多さに見合っていないと感じてしまうことが一因のようです。
また、同じ仕事内容でも発注者に近い企業のほうが給料額は高いなど、企業間で差があることも不満につながっています。
施工管理の声(一例)
- 高給と言われているが、勤務時間で割ると割に合わない。
- サービス残業や休日の持ち帰り仕事など、給料に含まれない仕事が多すぎる。
- 人命を預かったり、大金を預かったりする責任の重さを考えると、給料が少ないと感じてしまう。
6. 勉強することが多い
施工管理は何かと勉強の機会が多い仕事です。会社に言われて資格を取得したり、担当現場で新たな工法・資材の知識を習得したりといったシチュエーションは珍しくありません。
勉強に抵抗がない人でも、長時間残業で帰宅時間が遅くなり、深夜に勉強せざるを得ない点は、きつさに繋がっているようです。
施工管理の声(一例)
- 資格取得が昇給・昇格の条件になっているので、勉強が避けられない。
- 苦労して資格を取っても、現場で使える知識が少なくて後から調べ事をすることが多い。
- 現場が変われば、新しい知識が必要になることもある。周りが教えてくれないことも多いから、自分でネットや本を使って勉強するしかない。
7. 体力的に厳しい
代表的なものが、気温による辛さ。「夏場でも安全のために、長袖の作業服を着る必要があるため、熱中症になりそうになる」といった声が現場から挙がっています。外での作業が多い土木・建設系の施工管理に特に多いきつさのようです。
また、残業によって睡眠時間が削られたり、夜勤によって不規則な生活になったりする点も、体力的なきつさに繋がっています。特に商業施設・工場など、既に営業している施設での工事では、営業時間を避けて夜間に作業するケースが増えるようです。
施工管理の声(一例)
- 現場にいる間は、ずっと立ちっぱなし。
- 資材運びなどを手伝うこともあるから、「管理」と言いつつ体力を使う。
- 外での作業が多い土木の現場は、気温の影響を特に受けやすい。
- 騒音やホコリも多い環境だから、慣れないと体調を崩すことがある。
きつさは解決できる?
きつさの中には、必要な知識をつける、効率のいい仕事の進め方を考えるといった努力や、経験を積むことによって解決できるものもあります。
また政府からの働き方改革の呼びかけもあって、企業側から施工管理のきつさを解決する取り組みも進められているようです。
この章では、企業によるきつさ解決の取り組みの現状や、解決方法の一つである転職についてご紹介します。
働き方改革の現状
2024年から建設業界でも時間外労働の罰則付き上限規制が適用されることを受け、徐々に働き方改革の取り組みが進められています。
日本建設業連合会の調査では、約80%の企業で「書類の削減」「施工管理の効率化(手待ち、手戻り、手直しの解消)」を実施。70%以上の企業で「アクションプランなど、実行計画の策定」を行っているようです。
出典:日本建設業連合会「生産性向上推進要綱 2019年度フォローアップ報告書(PDF)」
ICTツールの導入が進んでいる
新たな取り組みとして、80%以上の企業が「業務系ICTツールの活用」にも着手。タブレットPCを支給して現場での書類作成を可能にしたり、情報共有アプリで資料共有を効率化したりといった取り組みは、大手・中堅企業を中心に広がっているようです。
ICT人材の増強も併せて進められており、この分野への注力具合がうかがえます。
今すぐ働き方を変えたいなら
今すぐに労働環境を変えたい場合、現実的な方法の一つが転職です。どんな企業を探せばいいかは、解決したいきつさによって変わってきます
ここでは、残業・休日・給料の3つの軸にそって、企業探しのポイントを紹介します。
- 残業のきつさを解決したい
- 働き方改革を推進している企業を探す
- 「どんな発注者と取引しているか」で選ぶ
- リフォーム・改修工事案件がメインの企業を探す
- 休日のきつさを解決したい
- 働き方改革を推進している企業を選ぶ
- 設備管理など、別の職種を視野に入れる
- 業種を変えてみる
- 給料のきつさを解決したい
- 大規模な企業に転職する
- 手当・福利厚生が充実している企業を探す
残業のきつさを解決したい
1. 働き方改革を推進している企業を探す
直接的な解決方法の一つが、大手・準大手ゼネコンなど、働き方改革を推進し始めている企業への転職です。規模の大きな企業は行政からの指導が入りやすいため、ひと現場あたりの施工管理の人数を増やして、個々人の業務負荷を減らす動きを徐々に進めています。
また、働き方改革を進めている企業を見分けるポイントのひとつが、ICTツール(タブレットPC等)の導入を進めているかどうか。もし求人でアピールしている企業があれば、チェックしておくといいでしょう。
2. 「どんな発注者と取引しているか」で選ぶ
取引先の発注者によって残業時間に差が出るというデータがあります。
たとえば、マンションディベロッパー・国土交通省の案件では、月平均70時間以上の残業が発生。一方で、最も少ない独立行政法人の案件では、月の平均残業時間が60.8時間という結果が出ています。
企業を見る際は、どんな発注者との関係が深いかを意識するといいでしょう。
出典:日本建設産業職員労働組合協議会「2018 時短アンケートの概要(PDF)」より
3. リフォーム・改修工事案件がメインの企業を探す
これらの案件の特徴は、発注者からの直請け案件があるという点。
通常の新築案件は全体の工期が決まっているため、個々の作業の工期を調整しにくいですが、リフォーム・改修案件では発注者と直接交渉できることが多く、調整の余地があります。
休日のきつさを解決したい
1. 働き方改革を推進している企業を選ぶ
残業を解決したいケースと同じく、直接的な解決方法は働き方改革を推進している企業を選ぶことです。
特に、施工管理の増員に力を入れている大手・準大手ゼネコンはねらい目。学歴や経験年数を問わず、四大管理の経験があれば入社可能な企業も数多くあります。
2. 設備管理など、別の職種を視野に入れる
業務を通して取得した資格を使って、別の職種に転職するのも選択肢の一つです。
たとえば施工管理と親和性が高いのが、設備管理。その中でも、完成した建物・設備、プラントの保守管理では、定型業務・シフト勤務が多いため、残業時間を減らせる可能性が高い傾向があります。
施工管理経験の中で取得する資格を使って転職できるケースが多いのも特徴です。
3. 業種を変えてみる
同じ施工管理職でも、所属する企業の業種を変えることで、就業環境を改善することが可能です。
たとえば、不動産管理会社やディベロッパーなどの発注者側では、下請けの企業に所属する施工管理に現場を任せられることが多いため、業務量を大きく減らすことができます。
給料のきつさを解決したい
1. 大規模な企業に転職する
建設業界では、大規模な企業ほど年収が高くなる傾向があります。厚生労働省の調査によると、従業員数が1,000名以上の企業とそれ以下の企業では、平均月収に約13万円~20万円の差があるようです。
「自分の学歴や経歴では、大企業に転職するのは難しいのでは……?」と考える方も多いですが、実は多くの方に門戸が開かれています。
「四大管理を全て経験している方」「サブコンで専門知識を身につけてきた方」などは、選考時に高く評価される傾向があるので、視野を広げて求人をチェックするといいでしょう。
2. 手当・福利厚生が充実している企業を探す
収入額だけでなく、手当・福利厚生にも注目してみましょう。たとえば資格手当だけでも、月収を5000円~数万円ほどアップすることが可能です。住宅手当、家族手当、出張手当、昼食補助、帰省費用の補助など、複数の手当が重なれば数万円単位で収入が上がります。
また、直接的な収入アップが無くても、福利厚生が整っていれば生活の質を向上させることが可能です。「寮・社宅が用意されている」「将来の備えになる、退職金・財形貯蓄制度が整っている」「旅行費補助などの私生活補助がある」など、生活をトータルで支えてくれる事例も数多くあります。
まとめ
- 施工管理のきつさは、大きく分けて7種類。
- 述べ70%の方が「業務量(休日の少なさ、残業の多さ)」に悩んでいる。
- 法改正を受けて、大手・中堅企業から徐々に働き方改革が進んでいる。(約80%の企業で書類の削減を進めるなど、取り組みが進んでいる)
- 解決したいきつさによって、転職先の探し方は異なる。
激務・きついといったイメージのある施工管理の仕事ですが、法改正の後押しもあり、職場環境が徐々に見直されつつあります。
特に働き方改革が進んでいるのが、大手企業。人材確保やICTツールの導入といった改善施策が活発になっている点に注目です。転職を考えている人は、企業がどのような取り組みを進めているかに注目して、求人を見てみるといいでしょう。
(セコカンプラス編集部)